【齋藤薫の美容コラム】Vol.51~

2023.09.25

【齋藤薫の美容コラム】Vol.51~

Vol.54 ダイアン・キートンをお手本に年齢や欠点は、とことんオシャレに隠す「絶世のアンチエイジング」

 太くなってしまったウエストを気にして、ベルトのない服ばかりを着ていると、もっとお肉がついていく・・・誰もがなんとなく気づいていること。でもいつかはしっかりとトレーニングして細くするとして、今はルーズな服でごまかしておこう。そういう発想になっている人、少なくないのではないだろうか。ただ本気のトレーニングは「いつかいつか」と後回しにしているうちに、どんどん億劫になって、もう後戻りできない状況になってしまいがち。だから改めて考えてみたいのは、要らないものは、隠してしまうのか、隠さずに戦っていくべきか、一体どちらが正しいのかということ。
例えばだけれど、首のシワを気にしている人は、首にストールを巻いて片側の肩の上でリボン結びにして華やかに装えば、欠点を隠しているイメージにはならないはず。見せたくないものを見せないのは1つの見た目アンチエイジングだけれど、欠点を隠しているイメージになったら逆効果。だからとことんオシャレに隠す。首のシワにこそ年齢が現れるのを逆手にとって、むしろ年齢以上に若々しく見せる方法だ。

同様にしっかりとお肉がついてしまったウエストも、ただぼんやりとさせるのではなく、ベビードールのようにウェストをマークせずに裾に向かって広がったテントドレスを選んでみたり。これは、バストまではフィットさせ、胸から裾に向かってゆるやかなフレアーが入ったトレンドのデザインで、薄手の柔らかな素材だと、とてもラグジュアリーな雰囲気になり、太いウエストを隠しているなど誰も思わないはず。
あるいはまた、15センチ以上もありそうな幅広のサッシュベルトをハイウェスト気味にしめるなどすれば、やっぱりオシャレに見えても隠しているようには見えない。ネガティブをポジティブに変えるファッションは、極めて効果的なアンチエイジングなのである。

かつて「アニーホール」で一世を風靡した女優ダイアン・キートンは70代で再ブレイク、彼女をヒロインにした映画が何本も作られているが、「ドライビング ミス デイジー」のように高齢者をテーマにしたストーリーではない、思いっきり恋愛ものだったり、青春モノの如き人生ドラマだったり・・・。これからの主役は70代であることを教えてくれる、ワクワクするような作品ばかりなのだ。

で、そうした作品のほとんどで、ダイアン・キートンは黒ブチの粋なウェリントン眼鏡をかけている。そしてファッションは、なんともオシャレなフレンチトラッド。黒ブチのウェリントンが本当によく映える装いだ。だからこの人は、全く若作りをしていないのに、ありえないほど若く見える。まさにこのメガネが、目まわりのシワを見事なまでにオシャレに隠してるのに加え、スタイルそのものが年齢をまるで感じさせないから。

中高年がメガネをする時、いかにもマダムな“淡い色付きの大振りで金ピカのメガネ”を選んでしまいがち。もちろん素敵につけこなす人もいて、一概に否定はできないけれど、多くは目尻の小じわを隠すため?と見えてしまう。これがトラッド風だと、スタイルが100%確立しているから、年齢を隠しているようには見えないのだ。

そして何よりもこの人は、ほとんどの瞬間、笑顔ばかり。いやそう錯覚するほど笑顔の多い人。これが法令線や顔の頬のたるみをあまりにも自然にカバーしていることを気づいてほしい。年齢は隠すのではなく、どこまでもオシャレに隠す、それがとても自然な若さにつながる。ぜひとも、トライしてみて欲しい。

Vol.53 〝50代に見える70代〟が現れたのは、一体なぜなのか?

近頃ますますわからなくなってきたのが、人の年齢。例えば昭和の頃は、今思えば、見た目年齢と実年齢がほぼ一致していた。あの人は50代半ばくらい?と思うと、実年齢との誤差はせいぜい、2、3歳だったりするように。少なくとも40代なのか50代なのか、はたまた60代なのか、見た目が実際の年代を外すことはほとんどなかったはずだ。

それが平成になると、〝40代に見えるのに50代だったりする人〟が目立ってくる。それも「私いくつに見えます?」と自らの若さと実年齢とのギャップで、人を驚かすことが生きがいのようになっている人までが増えてきた。じつはそれもボトックスのようなプチ整形がポピュラーになってきたこともあり、年代を超えるほどの若さも可能になったことを物語る。

でも令和に入り、またフェーズが変わった。端的に言えば50代にさえ見えてしまう70代が現れたのだが、もはやそういう人ほど「私、いくつに見えます?」とは言わない。そこに一生懸命若く見せているという意識がないからだろう。とても自然に気負いなく年齢を重ねても、圧倒的な若々しさを保つ人がにわかに増えてきたということ。

明らかに〝平成の若さ〟とは違う、〝令和の若さ〟が生まれていることに気づかされるのだ。でも一体なぜなのだろう?もちろん美容医療の目覚ましい革新もあれば、化粧品の進化もある。ただそういうこと以上に意識の変化が大きいのではないかと思うのだ。

つまり、年齢に対する一人ひとりの意識が確実に変わってきたことが、見た目にも人を驚くほど若くしているのではないか。

実は最近その研究が具体的に進んでいて、気持ちが若くなれば外見も若くなり、視力も良くなって握力もつくというような、素晴らしい結果が出ることがさまざまに実証されている。

逆にいえば、昭和の時代は30代からもう中年、50代には早くも隠居を考え始め、60代には何となく余生に入るような感覚があったはず。だからこそ60代になると、年齢という数字に合わせるように、このぐらい老けて見えなければいけないと言うように、わざわざ老けた印象を自ら作る人が多かったのではないか。

それが平成に入って、30代は〝大人の子供〟という認識になってきた。40代だってまだまだ若いという認識に。そしてなおかつ数年前から、人生100年が1つの常識となっていき、60代はまだ人生半ばという位置づけになる。最初は戸惑いもあったはずだが、今やもうそれぞれの世代にとって100年人生は当然のこと、50代60代からもう一つの人生が始まるような考え方が主流になってきた。

それだけでも昭和の50代60代とは、もう数十年の意識の差が生まれていたはずなのだ。加えて、髪型もメイクも、そしてファッションも、40代の頃と変わらない選択をし、本当に若い頃と変わらない佇まいを保つ人が一気に増えたこと。これがびっくりするほど若々しい人々を輩出し始めたのだ。意識の変化がいよいよ、見た目の明快な変化につながってきていると言っていい。

いずれにせよ、心の年齢が見た目の年齢を作る事が今や科学的にも証明されてしまった。であるならば、もう昔のような50代60代の年齢観などはかなぐり捨てて、自分の好きな服を着て、自分の好きな髪型をすればいい。
50代らしさ、60代らしさなど、もはや全く意味をなさないのだから。

Vol.52 歳を重ねるほどに、整えていかなければいけないものがある。それが、お辞儀。

身のこなしが美しい人が、美しい・・・改めてそう感じるのは、なぜかいつも悲しみの席だったりする。例えば、世界中が見たエリザベス女王逝去に伴う一連の報道にも、ハッとさせられる場面が多かった。それはおそらく、所作に心が写し出されるシーンだから。喪に服する場面では、忙しい動きなどなく、誰もが静かに厳かに振る舞い、一つ一つの動きが慎重に丁寧になるからこそ、逆に心が見えてくる。もっと言えば思いがこもっているのか、いないのか、そこまでが見えるような気がするからなのだ

エリザベス女王の棺を前に、ロイヤルファミリーの女性たちがカーテシーというお辞儀をする場面が度々見られた。これは、ヨーロッパの伝統的な挨拶で、目上の相手に対し、女性が行う礼法。バレエの舞台などでもよく見られるお辞儀だが、背筋は伸ばしたまま、片足を斜め後ろに引き、両膝を軽く曲げ、場合によっては両手でスカートの裾を軽く持ち上げる。
いわゆる〝ひざまずく〟動作をコンパクトにしたものと考えてもいい。だから今はロイヤルにおける挨拶が中心で一般的には見られないが、それだけに思いのこもった美しいカーテシーには目を奪われたもの。

例えば女王の長女アン王女は、葬送の行進をした後、女王の棺と離れる際に、控えめに、しかし思いのこもったカーテシーをして国民の賞賛を浴びている。母親を心から尊敬していたといわれる娘の敬意と愛情がしみじみと伝わってきたからだ。

一方で今、何をしても物議を醸すメーガン妃のカーテシーは、明らかに誰よりも深く腰を落とすものだったために、やりすぎとか、前傾姿勢になるのは美しくないとか、目立ちたがりといったネガティブ意見も多く聞かれてしまうのだが、それも王室離脱した立場として、女王にどのようなお別れの挨拶をするのか、その心模様を誰もが固唾を飲んで見守っていたからに違いない。

所作って、本当に難しい。綺麗に見せようと意識するほどに、何かあざとい印象になってしまうから。立派に見せようと意識するほどに、自己主張に見えてしまうから。どちらにせよ仕草は完全に身に付いていないと、魅力として人の目に映らないのである。

だから改めて思ったのは、私たちにとってのお辞儀の大切さ。いや日本人のお辞儀こそ、精神性や知性や人間性が問われる最も重要な身のこなし方、そう言えないだろうか。もっと言うならば、大人の美しさを象徴するものの一つが、このお辞儀。私たちは年齢を重ねることにより失っていくものばかりだと思いがち、でも〝年齢を重ねるほどに美しくをより増やしていかなければいけないもの〟が決定的にある事を忘れてはいけないのだ。

美しいお辞儀のコツは、ちゃんと立ち止まって、心臓をまっすぐ相手に向けること、そして背筋を伸ばして、頭を下げる時は素早く、あげる時はゆっくりと。ただこれも、意識しすぎると営業用のお辞儀のように見えて心が伝わらない。ただ、慌てたようにペコペコしたり、歩きながら体を斜めに向けたままとか、気づかぬうちにそういう癖がついていることが少なくないからこそ、一度自分のお辞儀を客観的に見つめ直すべき。オフィシャルな場面であっても、ただ深々と正式すぎるお辞儀をするよりも、例えば胸元に手を当てて相手の目をまっすぐ見ながらお辞儀をする、そういう方がむしろ心が伝わるもの。

どちらにせよお辞儀より相手に集中することが大切なのだ。それも一つのアンチエイジングと考えて。美しく歳を重ねる鍵なのだから。


Vol.51 自分の力をもっと信じて!自分自身が美容ツールだと自覚する お手入れのススメ

小さな切り傷は、放っておいてもいつの間にか治っている。軽い火傷も、気がつけば何事もなかったように治っている。考えてみれば凄いこと。いつもは忘れているけれど、私たちはとてつもなく優れた自然治癒力を持っているのだ。いやバンソウコウを貼っても、結局のところそれは自分で治していくのをサポートしているだけ。多くの野生動物がいかなる傷も舐めて治していくように。

ちなみに昔の傷の治療は「よく消毒して、乾かして治す」ものだったが、今のキズバンは「消毒せずに、湿らせて、密封して治す」。それは今主流となっている〝湿潤環境を作ることで創傷治療を行うテクニック〟。昔はガーゼで傷口を守っていたのに、それもしない。ひたすら肌本来の〝自ら新しい皮膚を作っていく力〟に任せるのだ。数日で傷口が白く盛り上がって新しい皮膚ができることに、目を見張るのだろう。

いずれにしても、人間は素晴らしい力を持っている。にもかかわらず、それを手厚く助けてくれる化粧品の目覚ましい進化に全て任せて、そうした自分の力をすっかり忘れてしまっているのが現実。昔から「肌本来の力を引き出す」というのは、スキンケア効果の常套句だが、それだけに言葉の意味を改めて考えることもなくなっていた。それこそ100%化粧品に頼りきり、美容医療に頼り切って、自分の肌の力を顧みようとしない人が多いのだ。その結果、肌の力をみすみす眠らせてしまっている人も少なくないのかもしれない。

実はそんな中で、改めて肌の力を最大限に利用する美容の流れが生まれてきている。いやそもそも細胞代謝を高めるお手入れも、古い角質を取り去る角質ケアも、肌が新しく生まれ変わろうとする力を目覚めさせるアプローチ。一方で、美容医療にも例えば「ダーマペン」のように、目に見えないほど小さな傷をつけて、それを自分で治そうとする創傷治癒の力を引き出し、コラーゲンやヒアルロン酸の生成を促すプログラムがある。でもそれ以上に、人の体には実際のところ、気が遠くなるほど緻密で複雑で多様な機能があって、その一つ一つをきちんと利用しようという流れになっているのだ。

今、年齢とともに劣化し機能しなくなっている毛細血管を蘇らせて強化するようなスキンケアが注目だが、それも人が持つ能力の立て直し。外から与えるのではない、内側から力を引き出すわけで、これからは自分自身の中にある力を使うことをもっと意識してお手入れしてみてほしい。いや、いきなりそう言われても・・・と戸惑うはずだが、そこで見直してほしいのが、神経系への働きかけ。脳神経を通して、まるで暗示をかけるように美しさへ導いていくアロマテラピーもその一つ。香りを嗅ぐことで、リラックスしたり、エネルギーをチャージしたり、ぐっすり眠れたり、すっきり目覚められたり。自分の中の副交感神経が活発になり、美しさにつながるような幸福感を得られること、自分の中で感じてみたいのだ。それこそが自らキレイになる力を全開にすること、自分自身がそこに参加していることをぜひ体で実感して欲しい。

外から与える美容成分等に限界が見えてきた今、これからは自分の力をいかに目覚めさせるかにかかっている。それを踏まえて自分自身が「美容ツールそのものなのだ」という自覚を持ちたい。そうすれば、今までの当たり前のお手入れも多分もっと効果が現れる。〝自分を効かせよう〟という見えない力が働くから。ともかく今日から自分の力をもっと信じ、フルに使ってお手入れを始めたい。それが最強の美容トレンドだと知ってほしいのだ。

  • 齋藤薫 / saito kaoru

    美容ジャーナリスト。
    女性誌編集者を経て独立。 女性誌において多数の連載エッセイを持つ他、美容記事の企画、化粧品の開発・アドバイザー、NPO法人 日本ホリスティックビューティ協会理事など幅広く活躍。『Yahoo!ニュース「個人」』でコラムを執筆中。新刊『されど“男”は愛おしい』(講談社)他、『“一生美人”力人生の質が高まる108の気づき』(朝日新聞出版)、『されど“服”で人生は変わる』(講談社)など著書多数。

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