だから、人はもう一つの宿命として、あの手この手でその老化に必死に抵抗しなければならない。言うまでもなく、衰えを感じた日からエイジングケアを始め、やがてはそれが生活の一部となるほど、人生後半はアンチエイジングが最大のテーマとなっていたわけだ。
でもその、どうにもならない宿命が、宿命でないとしたらどうだろう。
じつは今、「老化は宿命ではなく、病気の一つである」という考え方が急浮上しているのだ。そう、病気ならば、治療ができる。そして治せる。治せれば、人は歳を取らない・・・そういう驚くべき説が、今にわかに脚光を浴びているのだ。
とうてい信じられないと、誰もが耳を疑うのだろう。すぐには理解できないほど、それは衝撃的な発見であったと言っていい。
『ライフスパン 老いなき世界』というタイトルの1冊の本から、それは始まった。
ハーバード大学医学大学院の遺伝学教授にして、長寿研究の第一人者であるデビット・A・シンクレア教授の著書で、世界中でベストセラーになっている。
そもそも人生100年も、様々な病気が医学の進歩で〝死なない病気〟になったからこそ、人の寿命は一気に延びるとされたわけだが、最初はまさに夢の実現!と歓喜した人にも、冷静になって考えた時、新たな不安が生まれていた。もしそうであっても100歳は健康寿命なのか、ただの寿命なのか、そこに大きな違いがあることに気づいて、新たな問題を抱えることになったのだ。100年健康なまま、幸せなまま生きていくのはそう簡単なことではないと・・・。
だから一方で明らかになった「老化は宿命ではなく病気の一つなのだ」という長寿研究の一つの結論が、時間をそう置かずに急浮上したことは、私たちにとって大変大きな救いだったと言っていい。
もちろん、治療として一般化するまでにはまだまだ時間がかかると言うけれど、おそらくこれを読んでいる人は皆そこに充分間に合うはずなのだ。しかもそのメカニズムも大方わかっているから、本格的な治療が始まるまで、今しておくべきことも見えてきている。
それが、〝若返り薬〟として大きな注目を浴びているNMNをサプリや注射でとり込むこと。NMNは、体内で自然に生成されている物質で、長寿遺伝子群(サーチュイン)を活性化させ、骨格筋、心臓、肝臓、さらには眼などもひっくるめて、多くの器官でミトコンドリアを改善させるもの。でもこの物質が年齢とともに減少していくから、様々な病気=老化を引き起こすことまでが確認されたのだ。ちなみにこの老化には、見た目や肉体の老化だけでなく、成人病やアルツハイマー、肥満なども含まれている。
いずれにしても、これまでエイジングケアは美容の範疇を超えられなかった。でも今、それがしっかりと医学と紐付いて、人はついに医学的に歳を取らない未来を手に入れることができるようになったのだ。
もちろんだからといって、美容上のエイジングケアの手を止めてはいけない。逆に、本当に人が歳を取らない夢が実現する可能性が見えているのだから、その実現まで、むしろ今まで以上に美容によるエイジングケアでその日を待つべきなのだろう。歳を取らない未来まで、美容で歳を取らない自分を保っておくべきなのである。