【齋藤薫の美容コラム】Vol.36~Vol.40

2020.09.08

【齋藤薫の美容コラム】Vol.36~Vol.40

Vol.40 年齢を重ねるほどに、”毎日がパーティー”のつもりで身支度したい。

「最近ね、着るものがどんどん派手になっていくの」そう言ったのは、知人の70代の女性。困ったようにも、また嬉しそうにも見える、ちょっと複雑な表情が愛らしかった。

確かにその人は、昔からオシャレではあったけれど、むしろ目立たないよう目立たないよう抑制した服選びをする人だった。それが最近にわかに、昔は絶対に着なかった華やかな色の服を着るようになっている。そして何より目立っているのは、会うたびにイヤリングが大きくなっていること・・・。「若い頃はこんな大きなイヤリングはできなかった。でも今、すっかりハマってしまってどんどんエスカレートするばかりなの」

本人も、それってなぜなのだろうと首をかしげた。明らかに、その人の中で”何か”が起こっている。少なくともオシャレにおける革命が起きているのは確かだけれど、そうさせるのは何なのか?本人にもわからない”何か”とは何なのか?

おそらくは、無意識に働いたバランス感覚と、そして好奇心なのだろう。どういうことかと言えば、まずこの人はもともと天性備わったセンスがあったから、年齢を重ねて自分から失われていきつつあるものを、装いのパワーで無意識に補おうとした。まさに華やかなものでバランスをとる反射神経が働いたのだ。

自分自身歳を重ねて思うのは、どうしたって枯れていく自分のビジュアル、”毎日がパーティー”みたいなフルなオシャレをしないと、くたびれた印象を免れないということ。髪はもちろんだけれど、ファッションも「どこへ行くの?」と聞かれるくらいの”盛り”が必要なのではないかと思うようになった。そう思い始めてから気づいたことがある。むしろ、年齢を重ねてこそ、”派手”が似合うっていう真実を。

正直、若い頃にはむしろ尻込みしていたような大柄の花柄や、真っ赤な服、黄色い服、そして大きな大きなイヤリング・・・そういう華やかなものは、年齢を重ねてからの方が俄然似合ってしまうことに気がついたのだ。

さらに言えば、年齢を重ねて、改めて派手になれることに気づいた女性たちは、どんどん自分自身の探求者になっていく。つまり、改めて出会うことになった美しさや華やかさ、若さへの好奇心、みるみる輝いていく自分への好奇心が止まらなくなる。もっともっとという気持ちの高揚が、止まらなくなるのだ。

以前から大きな研究テーマだった”脳と肌の関係”がいよいよ明快になっていて、ここへきて、「好奇心が若い肌を作る」ことが科学的に証明された。発見したのが大手の化粧品会社だったことも、未来の美しさに直結する話。確かに、精神論から言っても、好奇心は若さにつながる。なぜなら知りたいことがあると、未来がまた無限に広がっていく。物欲は、満たしてしまえばそこでおしまいだけれど、好奇心は何かを知るとまたさらに新しいことが知りたくなって、視野が広がっていく。そういう意味でも、未来への自分への興味が止まらなくなるのだ。だから止めどなく人を若くしていく。細胞を活性し、脳を刺激して、体の中からも人を美しく若々しくしていくのだ。

これから先、そうした若さのスパイラルが起きることを、知って欲しい。年齢を重ねると、こんなに素晴らしいことが待っていると。


Vol.39 習慣が人格を作る。表情が素晴らしい人格を作る。

笑顔に、免疫力を高めるような効能があって、笑うほどに健康になると言われ始めてから久しい。だから、笑顔で生きることがとても大切なのは、きっと一人一人が十分にわかっている。それでも、日常生活に紛れてその心がけをついつい忘れてしまう。

だから、笑顔のサクセスストーリーは、とても良い刺激になるわけで、先ごろも42年ぶりに世界のメジャーを制した女子ゴルフの渋野日向子選手の存在は、改めて私たちに笑顔の大切さを思い出させてくれた。

正直なところ、あの愛くるしい笑顔が成績にどれだけの影響をもたらしたか、これは測りようがない。日本中に少しでも笑顔が増えるのなら、とても喜ばしいことだけれども、笑顔だけで切り抜けられるような簡単な話ではない事は私たちもよくわかっている。でも、優勝がかかる場面では誰でもピリピリしてしまうはずのところ、ホールとホールの間を笑顔で移動し、ギャラリーのハイタッチや握手にも応えられる気持ちのゆとり、それが次のショットに良い影響を与えるのは間違いなさそうだ。

でも、それこそ簡単なことではない。尋常ではない緊張感が張り詰める場面で、笑顔になれるのは、相当に達観した大人か、さもなければ幼すぎて怖さを知らないか。

でもこの選手の場合はどちらでもない。

プロになる前は緊張やイライラが顔に出て、自分に対しすぐに怒りが生まれるタイプであったと言う。それをコーチや父親に咎められ、母親からは笑顔の時が一番かわいいと褒められ、毎日毎日朝出かける時に笑顔でねと言われ続けてきたと言う。つまり周りの協力もあっての努力の結果なのだ。

おそらく最初は、口角を上げるだけだったのだろう。笑顔を絶やさないって、実際やってみると難しい。現実にそういう状況になければ笑顔だって続かない。じゃあ口角を上げる行為はどうか?これは姿勢を正すのと一緒。意識して姿勢を正そうとしても10秒後には忘れてしまっているように、やっぱり続かないはずなのだ。ただ忘れても忘れても、思い出したら上げ、思い出したら上げるというふうに、繰り返し口角上げを自分に課していくしかないのである。

そこまでして?というかもしれないが、ぜひともそこまでしてほしい。口角を上げる癖をつける事は、それだけの価値があるから。その習慣はいつの間にか、笑顔を絶やさない人を作っているからである。

そもそもが、笑顔と口角を上げること、そこに効果の違いはないと言われる。つまり実際には、口角上げるだけで副交感神経が優位に働いて、リラックス状態になるとはよく言われること。けれども、口角上げはそれだけに留まらない。いつも笑顔を絶やさない素晴らしい人格を作るのだ。

私たちは、人格が表情を作ると思いこんでいる。でも逆の作用も起こり得ると言うことを知っておくべきだ。つまり表情から人格が作られるケースもあるということ。

「習慣が人格を作る」という言葉がある。まさに口角を上げる習慣がすばらしい人格を作っていく。そうした流れを作るきっかけを、今まさに自分に与えてあげたいのだ。


Vol.38 ワーグナーに身も心も浸っているマダムは、歳をとらない!?

夢中になれるものがあるのは、人生充実のカギ・・・誰でも知っていることである。

でもそれ以上に、”夢中になれること”は、アンチエイジングの最大の鍵かもしれない。とりわけ文化芸術に関わる夢中は、若返りに直接つながる。なぜならば、程度の差こそあれ、それは大変なエネルギーを要し、最大級に気力体力のいることだから。

韓流ドラマを家で1日中で見ているという夢中は、この限りではないけれど、歌舞伎にオペラのような劇場系芸術は、どれも本気になると本来は”受け身”であるはずの観劇が、極めて能動的なものとなり、最大級のエネルギーを要するものとなるのだ。

単純に、歌舞伎は、約4時間。途中、休憩は入るものの、食事のために席を取るのも、トイレの行列に並ぶのも、それはそれで体力の要ること。もっと言うなら、4時間近くを決して快適ではない座席に身を置いているだけでもやはり結構なエネルギー。

オペラも同様で、演目がワーグナーなどになると、平気で5時間を超えたりする。言葉がわかっても歌詞は難解、舞台上の動きもあまりなく、となれば当然睡魔が襲ってきたりするから、すべてをちゃんと起きてみているだけで相当な気力体力。特にワーグナーは他のオペラと違って、途中聴かせどころのアリアなどが差し込まれることもなく、その都度拍手をするようなこともない訳で、延々と切れ目なく続く。だから、いくら音楽が美しくても、やはりずっと集中し続けるのは、ある種生命力がなければ無理なのだ。

ドイツのパイロットには、ワーグナーの楽劇を上演するためだけに建てられた祝祭劇場がある。夏に開催されるパイロット音楽祭の間だけしか使われないことでも有名だが、それだけに世界中からファンが集まりチケットは非常に入手しにくい。ただこの劇場はオペラ上映にふさわしい作りや音響そのものにこだわったため、観客席の椅子は小さく、何とクッションのない硬い木造り。もちろん冷房もない環境だから、観客にとっては苦行そのものとなる。しかも前述したようにワーグナーの演目はみな長く、4時間5時間が一般的。

ところがその苦行に集まる着飾った紳士淑女たちは、事もなげにそこで目をランランとさせながら背筋をまっすぐ伸ばして4時間5時間を高尚な音楽に浸り切るのだ。そこに集うのは60代以上のマダムも多いが、彼らは本当に生き生きキラキラしている。ワーグナーファンであること自体、とんでもない若さの証なのだ。内容も哲学的だけにワーグナー好きは、知的レベルも皆高い。

だから改めて感じたの、ある程度年齢を重ねると、気力体力と知力は比例するということ。文化芸術に夢中になることそれ自体が知力であり、またその知力を満たすためには気力体力が絶対不可欠になってくる。だからこそ趣味を持ち、芸術に没頭することは、最強のエイジングケア。特にオペラや歌舞伎には、ドレスアップしていくのが基本だからこそ、そういう意味でも新たな自分磨きにつながり、若さ美しさを保つ上で、実に良いことずくめなのである。

人間が子供の頃から知性を磨くのは、「将来文化芸術に親しんで、生涯心を隙にしないため」とも言われている。そうやって培った知的欲求をしっかりと満たすために足腰を鍛え、細胞エネルギーを高めて気力を鍛え、4時間5時間の講演に耐えられる自分を作ろう。それは究極のアンチエイジングに違いないから。


Vol.37 美人は、美人の自覚が作るもの。

だから、「私は美人」と言い聞かせるテクニック!

美人の定義もいろいろだけれど、中でもいちばん重要なのはこれだと思う。本人の自覚。自分が美人であると言う自意識である。これがないと、どんなに美しい顔立ちを持っていても美人に見えないし、逆にその自覚さえあれば、正直誰でも美人になれる。美人の半分は、雰囲気が決めるのだから。

でも美人の自覚も、根拠なきものでは意味がない。自分の美しさを自覚できるだけの、努力や工夫はやっぱり必要だと思う。

たとえば、美容医療を積極的に受けたり、最先端の化粧品を使って本気のお手入れをすることも、ダイレクトに美人の自覚につながるのだろう。そして外出する日、精一杯のオシャレをし、フルメイクをして、全く落ち度のない自分を作って出かけることももちろん大切。でももう一つ、とても重要なのは、誰にも会わずに家で過ごす日の自分なのではないかと思うのだ。

あなたは、誰にも会わない日、どんなふうに1日を過ごすのだろう。じつは誰にも会わない日も、軽めにでもメイクをして、誰が来ても恥ずかしくないような身支度をして過ごしている・・・それが、美人の自覚につながると言いたいのである。さらに言えば、そういう自分を1日に何度でも鏡で確認する、それが極めて重要だと言いたいのだ。

1960年代のフランス映画に、ロジェ・バディムという伝説的な映画監督がいた。自らが企画する耽美的な作品もさることながら、伝説となったのは、むしろ名だたる女優たちと次々と結婚をしていること。計5回もの結婚をしているが、ブリジット・バルドーに始まり、カトリーヌ・ドヌーヴ(籍は入れていないものの一児をもうけている)、ジェーン・フォンダまで、まさにその時代を代表する大女優と結ばれているのだ。

何より、彼女達と結ばれるたびに、その時々の妻たちを主演にした映画を制作したことも、1つのレジェンドとなっている。バルドーとは『素直な悪女』を、ドヌーヴとは『悪徳の栄え』、フォンダとは『獲物の分け前』など、いずれも、妻たちの官能性を引き出すエロティックなものばかり。

そして、バディム監督は妻たちの美しさを家でも鍛えていたと言われるのだ。何をしたかと言うと、部屋を鏡張りにして、家の中では裸で過ごさせるという驚くべき方法。何をしていても自分の美しい体が鏡に映る、いわばあらゆる瞬間、その美しさを自ら確認することによって、もっともっと自分に美人の自覚を植え付けること、それが”官能的な美女を育てる天才”と言われたゆえんなのである。

そこでちょっとこれを参考に、家では意識して、自分の姿に見とれて欲しいのだ。むしろ家にいる時ほど大胆にメイクをしたり、ロマンチックな部屋着やルームシューズを身に付けたり、誰にも見せない分だけ、いっそ思い切ったオシャレをして自分の姿にうっとりしてほしいのである。

じつはそれが美人の自覚の作り方。それだけで毎日毎日美人が育っていく。うぬぼれるためではない。そういうふうに家でも充分な美しさを自分に見せ続けることで、自分に暗示をかけるのだ。「わたしは美人」と言う・・・やがて自然に備わっていく美人の佇まいや所作、そういうものこそが大切なのである。

美人は自覚で作られる・・・それだけは間違いないのだから。


Vol.36 メイクアップの功罪

年齢を重ねるほどにメイクを薄くしなさいと言う提言について、もう一度考える。

年齢を重ねるほどに、ついついメイクが濃くなるのは、人間の心理として当然のこと。

どんなに肌が綺麗な人でも、年齢とともにやっぱり素顔が不安になり、衰えや欠点を隠そうとするあまり、化粧膜がどんどん厚みを増していく。言うまでもなくファンデーションは、ある程度までは衰えや欠点をカバーしてくれるが、一方では若く美しい肌でないとキレイにのらず、何かを隠そうと、塗れば塗るほど小ジワやちりめんジワはむしろ目立っていくという宿命的なデメリットを孕んでいるのだ。

私たちもそれを、体験的に知っている。朝のメイクが日中地割れするように小ジワを目立たせ、パウダールームで鏡を見て驚いたこともあるはず。もちろん「年齢を重ねるほどにメイクは薄くしていくこと」という警告めいたメイク提案は昔からあって、それを頭の片隅では認識しているのに、いざ鏡の前に座るとそのルールを忘れてしまう・・・誰もがそうなのではないだろうか?

けれどもここへきてちょっと事情が変わった。化粧品の進化はこの数年本当に目覚ましく、エイジングケアも本当に効くようになっているが、ファンデーションも同様に5年前10年前とはもう比べようもないほどに劇的に進化を遂げているのも、大人にとっては何よりの朗報。非常に薄い膜でもカバー力が高まった上に、肌への密着力も高まって、崩れにくくなったのと同時に、表情にも無理なくついてくるような膜の柔らかさが加わったのだ。

もちろん、厚塗りすればシワが目立つのは相変わらずだけれど、もう厚塗りの必要はないということ。いや厳密に言うと、優れたファンデはもはや厚塗りしたくてもできない処方になっているのだ。またこれまでファンデーションでは難しいとされたツヤ肌仕上げも現実になった。大人の肌には絶対ツヤが欲しいから。

かくしてベースメイクは、大人にとってもネガティブの少ないエイジングケアになったと言える。この変化、考えてみると大人の美しさそのものを進化させるものといっていい。いくらスキンケアを一生懸命積み重ねても、最後の最後、ファンデーションの仕上がりでそれを台無しにしてしまうことって少なくない。だからこそ大人にとってファンデーション選びは大きな分岐点となるのだ。

ファンデーションだけは、新しい物好きが得をすると言われるほど、毎年のように進化を繰り返すアイテム。ましてやそれが加速度を増している今、どんどん新しいものにチャレンジしてみてほしい。肌の美しさもその分だけ更新されていくはずだから。つまりベースメイクの進化それ自体が、5歳10歳を平然と若返る速攻的なエイジングケアと言っていい。

さらなる攻めの”メイク・アンチエイジング”と言えるのが、「チークに青みの淡いピンク色を選ぶこと」。少女のような透明感が再現できるから、それだけでまた5歳10歳若返る。青みのピンクが良いのは、青みが生まれながらに持っている透明印象に加え、その青みが毛細血管の青みを想起させ、透明感がさらに強調されるから。もう一つ、アイライナーを思い切って強く入れ、目尻を少しだけこめかみの方に跳ね上げる。それだけで確実なリフトアップになることも覚えて。

まさしくメイクもそっくりエイジングケアと考えて、今日からメイクをやり直してみてほしいのだ。

  • 齋藤薫 / saito kaoru

    美容ジャーナリスト。
    女性誌編集者を経て独立。 女性誌において多数の連載エッセイを持つ他、美容記事の企画、化粧品の開発・アドバイザー、NPO法人 日本ホリスティックビューティ協会理事など幅広く活躍。『Yahoo!ニュース「個人」』でコラムを執筆中。新刊『されど“男”は愛おしい』(講談社)他、『“一生美人”力人生の質が高まる108の気づき』(朝日新聞出版)、『されど“服”で人生は変わる』(講談社)など著書多数。

次の記事へ

前の記事へ

記事一覧に戻る